アルプスの少女ハイジ②
この回には、子供たちに強烈な印象を残してきた
〝ヨーゼフが蝸牛をペロリと食べるシーン〟があります。

物語のあらすじ。
山の牧場で天候急変。風が吹き、雲が流れ、辺りも暗くなり、
急いでヤギを集め、岩棚まで避難するハイジとペーター。
岩棚までもう少しのところで雨が降り出し、落雷で近くの木が炎上。
初めて経験する自然の猛威に泣き出すハイジ。
やがて嵐が去った後、親から逸れた雛鳥(ピッチー)を、
ハイジが保護する…
2才の娘にとっては、この起こりの時点で十分お腹いっぱいの内容。
娘なりに風雨といった天候の概念、
自然の厳しさを理解しようとしているのか、
毎回食い入るようにこのシーンを見つめています。
ハイジは弱ったピッチーを山小屋へ連れ帰ります。
木の食器に藁を敷き詰め寝床を拵え、
山小屋の周辺で捕らえた餌となる虫、ミミズ、
まだ動く蜥蜴の尻尾等をピッチーに与え世話をします。
この時、蝸牛を見つけてピッチーの餌となるかどうか
思案中のハイジの目の前にヨーゼフが現れ、
蝸牛をペロリと食べてしまうエピソードも挿入されます。![]()
このシーンはラストへの伏線ともなるシーン。
それ以上に生き物が生き物を食べるといった
リアリズムを象徴するエピソードを挿入した作者に、
思わず敬意を表したくなります。
このような現実的なシーンを積み重ねていく事によって、
大人でさえ、アルムの山での生活(ハイジやペーターが経験する事)
に魅せられていってしまいます。
「アルプスの少女ハイジ」特徴、
一番にリアリティーの追求が挙げられると思いますが
アニメーションにとってもっとも重要なファクター、
子供たちに夢を与える部分もリアルさを壊さない範囲で、
キッチリ鏤めてあるのが素晴らしい。
例を挙げれば思いつくだけでも、
〝屋根裏部屋で干し草を集めて作ったベッドに、
ふんわ~りとハイジが空を舞いながらシーツを敷くシーン〟
〝ペーターがヤギの足元に寝転がって、直接ヤギの乳を飲むシーン〟
〝すごい勢いでアルムの山をかけまわるハイジとペーター〟
物語のあらすじに戻ります。
ハイジはピッチーがヨーゼフに食べられないかと心配しつつも、
ヨーゼフの上って来れない屋根裏部屋にピッチーを残し、虫捕りに。
暫くして屋根裏から落ちるピッチー。そこへヨーゼフ。
『ワン!ワン!』ヨーゼフが吠えるのをききつけ、
慌てて小屋へかけ戻るハイジ。
そこにはピッチーを追いかけるヨーゼフの姿。
『ヨーゼフ!! ピッチーを食べてはだめ!!』
物語はいよいよ佳境。
(バックには不安をかきたてるような音楽)
ハイジは食べられる前にピッチーを捕まえようと懸命。
けれどもピッチーは逃げ回り、あわや竈の火の中。
その時です。ヨーゼフが “ふわり” とジャンプ一閃。
パクりとピッチーを。
『ああっ!食べちゃった!! ヨーゼフのバカバカバカ!!』
泣きながらヨーゼフを責めるハイジ。
ところがヨーゼフが “ふわぁ” と口を開くと、
ピッチーの嬉しそうな鳴声。
そして優しく舌を使ってピッチーを床へ。
ヨーゼフはピッチーを食べたのではなく、助けてあげたのです。
娘はこのシーンが好きで何度も『もっかい!』を連発。
やはり、ハラハラした後にホッとする展開は、子供にとっては鉄板。
そして終わりのナレーションが入る。
ハイジは日頃無愛想なヨーゼフが、
本当は優しく利口な犬である事が分かりました。
山小屋で暮らすハイジとおじいさんにとって、
ヨーゼフはもうひとりの家族だったのです。
最後まで観ると、上質のミステリー小説を読んだ気分になります。
冒頭、タイトル「もうひとりの家族」と一緒に(ミステリーの文法通り)
何気にさりげなく、ヨーゼフのシーンから始まり、
2才の娘がお腹いっぱいになる程の、リアリティあふれる自然描写。
嵐に合う事によってピーチーの保護。
(ここからはずっとピッチー関連のエピソード)
ペーターとの喧嘩、虫捕りと続き、タイトルの「もうひとりの家族」が
指し示す意味をピッチーに集めたところで、真打登場。
終わりのナレーションを子供たちにしっかり叩き込んで、
めでたし、めでたし。
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